爽やかなそよ風が吹き、気分も一転、すっきりした気持ちにさせてくれる春。英語で「春」は「スプリング」というが、これには「飛び跳ねる」という意味もある。そう、活力あふれる季節の始まり。
この時期に入ると、ファッションのムードも一気に変わる。落ち着いた色のモクモクした服装から、カラフルで軽やかな服装へとトランスフォームする。春は気温の寒暖が激しいので、なかなかファッションが決まらない季節だが、レイヤー術等を生かすと心地よく過ごしやすい。
「春の最新ファッション情報」を紹介する Web サイトやファッション誌は数多く存在する。だが、「日本人固有の伝統的な春の色彩感覚」まで踏み込んで書かれた質の高い記事を目にすることはほとんどない。そこで、FRIVOLITE が、敢えて「日本人固有の伝統的な春の色彩美」を紹介してみたいと思う。もちろん、この色彩美の感性とは、モードファッションの美感に通じるものである。
題名「 Sakurairo 」
撮影&編集: FRIVOLITE holo
春から連想する色彩。まず思い浮かぶのは、桜や梅や桃をはじめとする「淡い赤色系の色合い」ではないだろうか。特に桜と梅は、日本を代表する風物詩であり、昔より、単に「花」というと、桜や梅を表す。※注1
「日本人の無常観」と「桜の花」、そして、「春」は、深く結びついている。桜の花は、例えようのないほどに美しい。ただ、その花の命は短くはかない。その常なき様態、つまり、無常(この現象世界のすべてのものは生滅して、とどまることなく常に変移しているということ)が、「花は、枯れるからこそ美しい」という美的感性に発展し、日本人の「愛でる」という感性へとつながる。※注2
それと、桜のことばかりではなく、「梅」についても紹介してみたい。相性のよいもの同士の例えとして、「梅に鶯」という成句がある。上掲の写真は、梅と鶯が描かれた京塗の重箱(所蔵:Hiroomi Ueda )。鑑定してもらったところ、50年以上も前に製作された古い作品であるという。幼少の頃、祖父母に連れられ、よく熱海梅園へ行ったが、実際に梅の木に鶯がとまり、「ほーほけきょ」と鳴く光景を一度も目にしかことはなかった。しかし、その光景を思い浮かべると、いわれなく春を愛でたい気持ちとなる。正に、「五感で認識する、伝統的な日本の美的感性」。
最後に。まとめとして日本人の美的感性にもとづき、春のファッションについて語りたい。春に桜や梅の花を連想させるような「淡い赤色系の洋服や装飾品」を身につけることは、「旬を取り入れる」ということになる。旬を取り入れたファッションは、それを身にまとう者の外見や表情を自然と引き立たせる。また、周囲の人々に春の訪れを感じさせ、好感を与える。
ただし、その際には一点注意が必要である。それは、「桜や梅に限らず、花びら以外に植物の枝や蔓等まで描かれた図柄のファッションアイテムを着用する場合には、その時期を間違えてはいけない」ということである。吉祥文様の代名詞である「松竹梅」や「桜」の紋は、季節感以上に「日本人にとっての目出度きものの象徴」という意味合いが強いため、特に季節感を気にする必要はない。だが、花びら以外に植物の枝や蔓等まで描かれていたり、無数の花びらが咲き誇っているような図柄のファッションアイテムを身につける場合は、それを着用する季節を選ぶ。例えば、春爛漫、時花が満開に咲き誇る桜の木の下で、無数の花びらが咲き誇る図柄の洋服を身につけても冴えない。なぜなら、本物の桜の花の美しさには敵わないからである。大切なのは、「これから咲き始めそうな頃」に身につけること。最旬のモードファッション同様、「先取りの精神」が粋なのである。
題名「 Sakura to Tsuki 」
撮影&編集: FRIVOLITE holo
※注1
平安時代初期に撰ばれた最初の勅撰和歌集「古今和歌集」に、紀貫之の以下の歌が入集している。
- 人はいさ心もしらずふるさとは花ぞむかしの香ににほひける
この時代では、「花といえば、梅」。
しかし、時代がくだり、鎌倉時代になると、一般的に、花は桜を表すようになる。鎌倉時代初期、後鳥羽上皇の勅命によって編まれた勅撰和歌集「新古今和歌集(八代集 最後の撰和歌集)」に、以下の歌が入集している。ここで云う「花」とは、梅ではなく、桜であると解されている。
- 風かよふ 寝ざめの袖の 花の香に かをるまくらの 春の夜の夢
※注2
日本人の無常感を表すものとして、「平家物語」の冒頭文はあまりに有名である。
- 祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり
- 沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらわす
- 驕れる者久しからず ただ春の夜の夢の如し
- 猛き人もついに滅びぬ ひとへに風の前の塵に同じ
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